QUESTION / 元の問い
「創造性を発揮するとは、「タスクポジティブネットワーク」において、思考を繰り返したのち、「デフォルトモードネットワーク」において、固定観念とノイズがもたらす新たな観念が二項対立し統合することであるのか」を問いたい。」
創造とは、二つの神経回路が拮抗しながら融合する動態だ。タスクポジティブネットワーク(TPN/外部課題遂行時に活性化する前頭頭頂回路)とデフォルトモードネットワーク(DMN)は、通常は互いを抑制し合う拮抗関係にある。ところが2012年、神経科学者レックス・ユングらが『Frontiers in Human Neuroscience』で報告したのは、高創造性者においてこの二網が同時活性化する「共活性化」状態の存在だった。固定観念を砕くのは休息ではなく、TPN が積み上げた問題構造の上に DMN の自由連想が重なる、その衝突の瞬間そのものだ。
哲学者アーサー・ケストラーは1964年の『創造の行為』で、創造を「二つの互いに相容れない思考の枠組みが一点で交叉するバイソシエーション(bisociation)」と定義した。これは単なる比喩ではない。同年代の認知科学が示す「概念ブレンディング(conceptual blending)」理論——ジル・フォコニエとマーク・ターナーが1998年に定式化——は、異なる入力空間の構造が圧縮されて「融合空間」を生む過程を記述し、ケストラーの直観を計算論的に裏打ちする。二項対立は出発点であり、統合こそが産物だ。
日本の美学概念「間(ま)」は示唆的だ。音と音の「間」にこそ音楽が宿るように、TPN の集中と DMN の拡散の「間」に創造の芽が宿る。では問うべきは——どれほど深く問題を構造化すれば(TPN)、DMN は十分に豊かなノイズを返せるのか。二網の統合は鍛えられるのか、それとも到来を待つしかないのか。
DEEPER/学術的観点から
2019年、認知神経科学者ロジャー・ビーティーらは『PNAS』(vol.116, no.23) に、創造的思考の高い人物は「デフォルトモードネットワーク」「実行制御ネットワーク(ECN)」「顕現性ネットワーク(SN)」の三網が強く協調結合していることを大規模 fMRI 解析で示した。特筆すべきは、SN(前島皮質と前帯状皮質を核とする)が「どの信号を意識に上げるか」を選別するゲートとして機能し、DMN が生成したノイズ混じりの連想をTPN が評価できる形に整形する中継役を担っている点だ。つまり創造は二項対立の統合というより、三網が動的に役割交代しながら循環する「創造ループ」として記述される。この発見は、創造を促す介入を「休息か集中か」の二択ではなく、三つの回路それぞれの感度を調整する問いへと書き換える。