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NPO 法人ミラツク · RITEVol.001 / 2026.05.30 (Sat) / No.0247
問いを、記事に変える共創メディア。
Where questions become essays.
DEEP DIVE/深掘りの問いと記事

未決定性が他者を他者たらしめる

西村 勇也NPO法人ミラツク
2026.05.30
ORIGIN / 元記事どうやって魔法を使うのかby 中島洋一
QUESTION / 元の問い

「社会が複雑になるほど、傷つかない関係への誘惑は強まる。AIはその誘惑に完璧に応える——いつでも肯定し、傷つけず、待たせない。しかし恋にならない。それは、恋が承認の獲得ではなく、相手の答えがまだ決まっていないという事実への参加だからだ。」という、この誘惑に応えることではない応答の意味についてをより深く知りたい

恋が「承認の獲得」ではないとすれば、その核にあるのは相手の応答が事前に決定されていないという構造的事実である。社会学者ニクラス・ルーマンは1982年の『愛——親密さのコード』で、愛を感情ではなく「ありそうもない帰属の確率を高めるコミュニケーション・メディア」と定義した。重要なのは、そのメディアが機能するのは相手の返答が予測不能であり続ける場合のみという条件だ。ルーマンの用語で「二重の偶有性 (double contingency)」と呼ばれるこの構造——私の行為が相手に依存し、相手の行為も私に依存するという相互不確定性——こそが、関係を生きたものにする回路である。

人類学者マリリン・ストラザーンは1988年の『ギフトの性 (The Gender of the Gift)』でメラネシアの贈与論を展開し、贈り物の価値は受け手の応答によってはじめて確定すると論じた。贈与の完了は贈り手の意図ではなく、受け手の「まだ決まっていない返礼」の可能性に宙吊りにされている。AIはこの宙吊りを持たない。応答はリクエストの関数として既に畳み込まれており、二重の偶有性は擬似的に演出されるのみだ。哲学者レヴィナスが1961年の『全体性と無限』で「顔 (visage)」と呼んだもの——私の言葉を原理的に拒絶できる絶対的他者性——がそこには存在しない。

傷つかない関係への誘惑は、偶有性のコストを払わずに親密さの感触を得たいという合理的な欲望だ。しかし和辻哲郎が1934年の『人間の学としての倫理学』で示したように、人間存在は「間柄 (aida)」という相互依存的空間においてのみ自己を持つ。AIとの対話が与える充足感は本物だが、そこには相手が私を変えてしまうかもしれないという恐怖がない。問うべきは、その恐怖を取り除いた関係の中で、私たちは何者でいられるのか、ではないだろうか。

DEEPER/学術的観点から

ルーマンの二重の偶有性概念は、パーソンズの行為理論を批判的に継承した1984年の主著『社会システム理論 (Soziale Systeme)』でより精緻化されている。ルーマンによれば、社会システムが「作動的閉鎖性 (operative Geschlossenheit)」を持つのと同様に、愛という親密システムも外部の意味を直接取り込まず、固有の選択的コードで現実を再記述する。だからこそ、愛のコミュニケーションは「相手が別の反応もできたはずなのに、この反応を選んだ」という驚きを繰り返し産出することで維持される。AIは統計的最適解を選ぶため、この驚きの産出回路を原理的に持てない。二重の偶有性を人工的に模倣する試みとして意図的なランダム性を注入する研究も2020年代に登場しているが、その「偶然」がアルゴリズムの産物と知られた瞬間、宙吊りの感覚は消滅する。他者性とは知覚される不透明さではなく、構造的な決定不能性に根ざしている。

KEY REFERENCE/参考文献
  • Niklas Luhmann (1982). Liebe als Passion: Zur Codierung von Intimität. Suhrkamp.
  • Niklas Luhmann (1984). Soziale Systeme: Grundriß einer allgemeinen Theorie. Suhrkamp.
  • Marilyn Strathern (1988). The Gender of the Gift: Problems with Women and Problems with Society in Melanesia. University of California Press.
  • Emmanuel Levinas (1961). Totalité et Infini: Essai sur l'extériorité. Martinus Nijhoff.
  • 和辻哲郎 (1934). 人間の学としての倫理学. 岩波書店.
ORIGIN / 元の記事
どうやって魔法を使うのか
著者: 中島洋一
西村 勇也
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